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西村邸の想いと、愛すべきクラフトマンシップにふれる読み物です

クラフトマンシップとの語らい―第3回 一刀彫作家・ヒガシダモイチさん(第4章)

【クラフトマンシップとの語らい】ヒガシダモイチさんへのロングインタビュー、いよいよ最終回の第4章です。

NARADOLL HIGASHIDA』、そして『西村邸』、それぞれのビジョンに切り込んでいきます。

 

 

『一刀彫本来の姿』とは

 

杉本 ―ビジョンっていう言葉がさっき出ましたけど、いまの『NARADOLL HIGASHIDA』のビジョンはどういったものなんでしょうか。

 

モイチさん「『一刀彫本来の姿を目指します』っていうのが、NARADOLLの一番のビジョンやね」

 

―『本来の姿』というと…?

 

「一刀彫って、もともとは春日大社の神事に起源があんねんけど、そのあと根付とか日常の道具になることで、一気に世の中に広まってん。それを芸術の域まで高めたのが、江戸時代末期の森川杜園(もりかわ・とえん)っていう人。
実はそのあとからずっと、『一刀彫は美術品なのか、工藝品なのか』っていう論争が続いてんねん。これ言うと意外に思われるんやけど、奈良一刀彫って経産省が認定してる“日本の伝統工芸品”には入ってへんねん」

 

―え、そうなんですか。どうして?

 

「認めてもらうにはいくつか要件があって、『主として日常生活の用に供されるものであること』っていうのが、そのひとつやねん。さっき言ったみたいにそういう面もあるねんけど、一部の職人が『いや、俺らの作るもんは美術品や』って主張していて、業界が一枚岩じゃないから認められへん、と」

 

―作り手の意識の違いで、論争が起きているんですね。それをひとつに束ねるのは、確かに難しそうです…。

 

「せやねん。ただボクとしては『身近だった一刀彫の姿に戻ろう』って提案をしていきたいねん。
日常使いの道具として広まったものやのに、今は日常生活とかなり距離あるやん。物理的にも精神的にもガラスケースの中に入ってる感じ。
ボクは、まずそのガラスケースを取らなあかんと思ってんねん。原点回帰っていう進化。これが第一のビジョンやな」

 

―それが、『本来の姿』なんですね。

 

「そのためには、最初に話したような、現代の生活に合わせたデザインが大切やと思うねん。もともと一刀彫なんかまったく知らんかった人が、セレクトショップで見つけて『単純にかわいいし、自分の部屋にも合いそうやから』って買ってくれるようになってきた。そういう人が、最終的に能人形みたいな美術の面にも興味を持ってくれる。こういう流れが健全やんな。これについては、少しずつ目指すところに近づけてると思う。

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もうひとつ、ひな祭りのビジョンがあって。昔の人が、どんな感じでひな祭りを楽しんでいたのかを、一刀彫りを交えた空間とか体験で感じて欲しいねん。女性が自分たちのアイデンティティを確かめ合ったり、『女に生まれてよかった』みたいに生き生きする機会は、2020年の世界にもすごくマッチすると思うねん。

 

ハロウィンとかバレンタインがあんだけ盛り上がるんやったら、ひな祭りもそんなふうになれるやろって。日本中が桃色に染まって、工藝とか手作りのものに触れるきっかけになったら素敵やん。
こういうことを通して、最終的には『手作りって大事やねんな』っていうことを伝えるのが、もうちょっと広いビジョンかな。

 

まぁここまで行くと妄想やけど、ものづくりする人は、夢を見るのが仕事やからね。ボクらの原動力って妄想やんな。『こうなったらいいよね』と現実との距離感を縮めるために一生懸命走んねん

 

 

ループと変化を繰り返しながら、工藝は続く

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「あと…これは個人的なことやねんけど。この前、この能人形を実家に取りに行って、久しぶりに親父と工藝のこととか話し込んでん。そしたら、自分の中に今までと違う感じが出てきてて。さっき(インタビュー1章)『能人形はボクには出来へんと思う』って言ったばかりやけど、やってみたいと思い始めてんねやんか」

 

―おお! 何か心境の変化があったんですか。

 

「NARADOLLのおひな様見て『自分もやりたい』って言ってくれてる若い人が増えてきてんねん。そんな人らにおひな様を任せられたら、じゃあボクはこういう能人形を作ってみようかなって。
その時もやっぱり、届ける“対象”を考えたいねんな。誰かって言われたら、めっちゃ恥ずかしいんやけど…親父やねん。親父を喜ばせたい。親父が一刀彫と向かい合ってきた50年間かな。それをちゃんと受け継いだっていう、ボクなりの答えを形にしたいのかもしれへん。工藝って、その積み重ねで続いているもんやから。ゆくゆくは、ボクの弟子になった人が、ボクの能人形を見てくれたらいいのかもしれへんし」

 

―そうですね。お弟子さんも対象になりうると思いました。

 

「そんなふうに一刀彫りに向かい合う歳になってきたんかな(笑)。いつかボクも作るんやろなって。
工藝とアートの違いを語るとき、“繰り返し”っていう要素があって。ボクは親父の技術を模倣してくこと、受け継いでいくことが工藝やねん。
この例えは受け売りやねんけど…画家ってそうじゃないやん。ピカソの息子がピカソの絵を模写しても、それはアートとして評価されへん。でも工藝はそれが評価されて、何百年も続いている。

 

ただ、同じようなループに見えんねんけど、じつは時代ごとに細かい工夫が重なってんねんな。時代ごとに違う、『これが喜んでもらえる』っていうエンターテイメントやな。なおかつ、守らないといけない部分は守りながら。
これって、めっちゃ高度なことをしてると思うねん。そこがまた工藝の面白み、強み。時間的なループと変化、“繰り返し”を抜きに、工藝は語れへん。
だから『西村邸』での展示も、おじいちゃんから3代の作品を並べられたことは、すごい意味があったと思ってんねん」

 

 

一番夢中になれるのは、まず目の前の人を喜ばせたいっていう気持ち

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「『西村邸』も、杉本君のおばあちゃんちをそのまま使ってるけど、そのまま使ってるわけじゃない。いまの人にも届けたいわけやんか? ノスタルジーだけでは終わりたくないんやろ?」

 

―そうですね!

 

「すごく難しいことをやろうとしてるけど、そこはめちゃくちゃ共通してるから、あそこでやらせてもらえたことに意味があんねんな。あの場所で、杉本君が若い子に何をどう伝えるのか、すごく興味ある」

 

―最初の話に戻っちゃいますけど、ぼく自身は、自分がアーティストだという意識が、これまでまったくなかったんですよね。
もともと商業デザインの業界に居たことも大きいと思います。アート要素がないわけではないけど、基本はクライアントの要求に応えて、消費者を楽しませるものだから。アーティストの割合で言うと10:0の0。ずっとそう思ってたんですよね。

 

でもいざ、自分で『西村邸』という場所を作って発信する段階になって、『あぁ、自分はアーティスト寄りなのかも』ということを、ホントにこの数年で感じ始めました。
そういう気づきも含めて、特に伝え方はまだまだ苦戦してますね…。ぼく自身の価値観と、『西村邸』をどこまで一致させるか。“伝統の押し売り”っていう表現も出ましたけど、まさに『築100年の家やから価値があるんです』というふうにはしたくないですね。

 

「そうやね。京都と比べても、奈良は押し売りするより、気づいてもらう町やと思う。
若い子であっても“気持ちいいな”って気づける材料は、『西村邸』に揃ってると思うねん。ただ、それを伝える仕組みは工夫せなあかんよね。そこめっちゃセンス要るで(笑)」

 

―そうなんですよね! NARADOLLが最初に決めた「誰にどこで見つけてもらうか」っていうのが、まだまだクリアじゃないのかもしれません。

 

「ほんまにええ場所を作ってくれたと思ってるし、ワークショップの参加者とか、これまで関わった人も同じ想いやと思うよ。しっかり磨いていってな。まずは、『西村邸』が誰のために在るかやね。
NARADOLLは有難いことに、求めてくれる人、喜んでくれる人が目の前におるからね。

 

最近は“持続可能性”っていう言葉もよく使われるけど、シンプルなことなんかもしれへん。目の前にいる人を喜ばせたいっていう気持ちが一番身近で、それに夢中になったら、物事は自然に続いていくと思う。あんまり崇高なことばっかり考えてると、『俺じゃなくてもいいかな』とか、『人間そこまで完璧じゃないよな』とか、要らんことばっかり考えて手が止まんねんな。

 

そこは人それぞれやと思うねん。職人でも『100年後に残るものを作りたい』っていう人もいて、それはそれで立派なことやと思うし。
でも俺が一番夢中になれるのは、まず目の前の人を笑わせたいとか、喜ばせたいっていう気持ちかな」

 

―ありがとうございます! 改めてじっくり考えてみます。

 

 

あとがき

最後はいつものアニキらしく、グッと背中を押してくださいました。

 

今回は、伝統や工藝、ものづくりに対するモイチさんなりの斬新な視点やアプローチを、たくさん話していただけました。こうした話が、ベテランの職人であるモイチさんの口から出るという事実に、ぼくはお会いするたびに感動してしまいます。ずっとこの“モイチイズム”を、まとめてみたいという思いがあったので、今回記事にできて感無量です…。
1章の冒頭で話した通り、ものづくりを始めたばかりの方、続けてはいるけど迷いが絶えない方。そういう方の力になれれば幸いです。

かく言うぼくも、まだまだ“ものづくり”1年生。これからの世代に“ええもん”を作っていきたいと感じていただけた方は、ぜひ一度、『西村邸』に遊びに来てください。いつでもお待ちしています。

 

長い記事になりましたが、最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました!