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西村邸の想いと、愛すべきクラフトマンシップにふれる読み物です

クラフトマンシップとの語らい―第3回 一刀彫作家・ヒガシダモイチさん(第2章)

【クラフトマンシップとの語らい】ヒガシダモイチさんへのロングインタビュー、第2章です。

第1章は、ご自身が立ち上げたブランドNARADOLL HIGASHIDAの指針が決まるまでのお話を、ひな人形業界や、アーティスト性なども絡めながら聞かせていただきました。
第2章は、動き始めたNARADOLLが、どうやってお客さまに届いていったのか。そしていま現在、大切にしていることが語られます。

 

 

意外なマッチングを生み出す、批評の重要性

 

杉本 ―いまNARADOLLを喜んでくださる“対象”は、どういう方が多いんでしょうか?

 

モイチさん 「ウチのお客さんに、もともとの一刀彫ファンって、ほとんどおらへんねん。
例えば、北欧系のインテリアが好きな人かな。木を使った手作りのもの、っていうのもあるけど、もうひとつボクの見つけた共通点があって。
一刀彫じゃないひな人形―日本人形って、やっぱり怖いイメージあるやん」

 

―ありますね。ホラーな感じですよね…。

 

「そうそう。なんで怖いかって考えたら、リアルやねんな。リアルさに、ちょっと背負いきれへん魂を感じる…。
それに対して、北欧の人形ってデフォルメされてんねん。リサ・ラーソンとかね。リアルとファンタジーの間やねんな。
これに気づいたとき『一刀彫は届く!』と思ってん。一刀彫のデザインはデフォルメやから」

 

―確かに!

 

「ボクが一刀彫の技術にこだわる理由もそこにあんねん。

 

他にはオーガニックとかに関心が高い人かな。これも独特の親和性があると思ってて。
オーガニックに関心がある人は、ある程度いまの生活に余裕があって、健康を気にする人やん。健康って、未来への投資やん。一番の未来への投資って、子どもやん。じゃあ子どもの初節句にはいいものを、ってなる。そういう人も積極的に買ってくれはるね。

 

これまでこういう人たちに、一刀彫ってあんまり届いてこなかったけど、もともと歴史とか時間的なことにも興味持ってくれはる人やし。変に人形自体を今風にする必要はないねん。若干の色味とかパッケージの見せ方を整えて、ちゃんと目の届く売り場に出してあげるだけで、すんなり受け入れられたね。」

 

―そういう売り場が、大きな百貨店やギャラリーというよりは、一定のコンセプトを持ったセレクトショップになってくるわけですね。

 

「ギャラリーに来る人って、既にえぇもん持ってはんねん。『素晴らしい!』って言ってもらえるのは嬉しいけど、やっぱり売れへんねんな。
そこで無理に売り込むんじゃなくて、全然違うところに持って行ったら、案外バチッとはまる場所がある。誰に届けるか、どこで見せるか。ボクはこういうところに、工藝の伸びしろをめちゃくちゃ感じてんねん

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―こういうカラフルなパッケージも、売り場に合わせて工夫されているのを感じます。珍しいですよね。

 

「実際に売ってくれるのはお店の人やけど、自分らでもできる工夫はしておこうと思ってる。箱が並んだときに、気持ちよく高さが揃うようにしてあんねん。そしたら、いろんな色を並べてくれはるから、華やかに見える。他にも、説明しやすいギミックを持たせておいてあげるとか。パッと見のかわいらしさはもちろんやんな。

 

こういう外見も含めた工夫は、これから職人が取り組まんなあかん仕事やと思うねん。作るだけじゃなくて、伝えること。そこまでが職人の仕事…というか責任かな。伝えるために、こういう取材を受けて話すし、いろんなものを見やなあかんし。
昔は、『自分のつくるもの一本に集中してたらええ! ええもんつくれ!』っていう言い方もされたけど、やっぱり届ける相手がいるわけやから…」

 

―誰にとって“ええもん”か、ですよね。

 

「そう。買ってくれる人がどういう生活してて、どういうものに興味持ってるかを知らなかったら、その人にとっての“ええもん”ってできへんはずやねん。そこにまったく目もくれずに“ええもん”作るっていうのは、ボクは嘘やと思うわ。ファッションとかエンターテイメントとか、そういうものにも自然と興味が向かっていく。

ボクはそうやって触れたものに対して、どこに発表するでもないけど、一つひとつ批評しようって決めてんねん。自分なりの批評をずっと繰り返して、答えが出たら引き出しに入れとく。
自分で表現するときって、結局この引き出しの中の組み合わせやん。ストックを組みあわせて、どん! て出す。“センス”っていうのは、批評した数やと思うねん。弟子にも『批評しときや』ってことは、めっちゃ言うね」

 

―そのストックがNARADOLLの世界観を作っていると思うと、すごく説得力があります。

 

 

『やらないことを決める』8年目

 

―柔軟にいろいろなことに取り組んでいく中で、注意されている部分はありますか。

 

「最近、決めなあかんて感じてるのは、『どれくらいのビジネス規模でやるか』かな。
セレクトショップとかで人気になったおかげか、老舗とか百貨店から『新規のお客さん欲しいから、NARADOLL扱わせてくれ』って言うてくれはることも増えてんねん。
もちろん有難いねんけどな。新しく取引をはじめた大手の人形屋さんが最初にくれた発注が、ものすごい数やってん。めっちゃ悩んでんけど、やっぱりその数は物理的に間に合わへんから、断わらせてもろてん」

 

―手作り故の厳しさですね…。

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「こればっかりはしゃーないよね。また同じような発注が来たときのことも考えて、NARADOLLみんなで話し合ってん。『大手と取引させてもらって、全国のどこへ行ってもNARADOLLの人形がある状態を目指すか?』って。そしたら、みんな首傾げてしもてん。『それってなんか思ってるのと違う。ボクらの思ってる人に届かん気がする』って。

 

工藝の伸びしろはものすごくあんねんけど、そこまでいろんな人に届くビジネスにはならないし、なる必要もない。各地にいろんな工藝が点々としてて、作家さんがいて、それぞれが小さい規模のビジネスを回して、ちゃんと食っていけてる。そういう状況がハッピーやと思う。
いまは戦略の一環として東京で置いてくれるお店を増やしてるけど、十分に需要を高めることができたら、ちゃんと奈良に戻ってきたいと思ってるしね」

 

―誰に届けるかを明確にできているからこそ、諦められる部分もあるんでしょうね。

 

「そう、2020年は『やらないことを決める』っていうのがNARADOLLの抱負やねん。7年前に始めたときは、まず新規を取らなあかんし、いろんな人に知ってもらいたかったから、声かけてもらったことには、何でもチャレンジしてた。
そうしていろいろやってきた結果かどうかはわからへんけど、NARADOLLが新しいことをしてるっていうイメージ、らしさが定着してきた手ごたえはあんねん。その輪郭をもっとはっきりさせるために、これからは、やらないことを決めた方がきっと強くなる。その段階まできたと思ってるわ」

 

―ブランドづくりに成功されていると、他の工藝品のプロデュースとかアドバイザーの依頼も来そうですけどね。

 

「そこまでのことはまだ出来へんし、『ボクは一刀彫の人です』ていうのをはっきりさせておきたいね。自分のできることと、やりたいビジョンが十分にあるから。それを見て、一緒にやりたいっていう人が来てくれたときには、喜んで協力させてもらうかな」

 

第2章はここまで。第3章に続きます。