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西村邸の想いと、愛すべきクラフトマンシップにふれる読み物です

クラフトマンシップとの語らい―第1回 妖怪書家・逢香さん(後編)

こんにちは、西村邸主宰の杉本です。

逢香さんとの対談、後編です。前編では、学生時代のルーツから、現在に至るまでのキャリアについて、お聞きしました。後半は、現在の活動から、これからの展望について、話していただきます。

 

杉本 ーいま現在の制作で、逢香としてのブランドづくりというか…妖怪×書道の時点で、突き抜けたオリジナリティがあると思いますが、その他に大切にしていることってありますか。

 

逢香さん「ブランディングっていう程でもないですけど…奈良で自分の制作を再開したタイミングで、WEBサイトを一新しました。手書きの要素を増やしていますね。」

 

ー文字だけでなく、背景なんかにも墨の要素があって、こだわりを感じますね。積極的に売り込んでいくわけではないけど、客観的に見て、自分の強みだとお考えの部分はあるでしょうか。

 

「強みですか…実は、いまメディアによく出ている書道家の中で、書道を専門的に学んできた人って意外と少ないんですよ。大学の書道科を出るのがすごいわけではないんですけど、高校の書道の教師の経験もあり、実家は奈良のお坊さんが通いに来てくれているような書道教室です。そういうバックグラウンドはありますね。

あとは墨を硯で磨ること。ワークショップだと墨汁を使う人も多いんですけど。道具を使うことにも興味を持ってほしいと思っていますね。いま企画しているワークショップも、奈良墨を製造している会社さんにご協力いただいて、墨を磨るところからやっていきます。

あと、大切にしたいのは、「親しみやすさ」です。自分が最初に興味を持ち始めた草双紙が庶民の楽しみであったのと同じように、現代のどんな人にも親しみやすい作品を作っていきたいと思っています。

『現代の生きづらさを妖怪とともに』というキャッチフレーズでやってるんですけど。価値観の違いとか悩みとか、そういう誰もが行き当たるものを、書や妖怪を通じて表現していきたいです。」

 

ーやはりそこが想いのルーツにある部分なんですね。

ぼくも西村邸を、「違いの分かる大人が楽しめる」みたいな…骨董品っぽい高級志向にするイメージはあまり湧いていなくて。子どもも含めた若い世代に、奈良町屋の持つ魅力に気づいてもらえる場所にしたいんですよね。やっぱり、鄙(ひな)びた素朴はもののよさのに目覚めるのって、早い場合でも30歳前後が多いじゃないですか。それをなんとか、20代前半に持っていけないかとか思うんですよね。

 

「20代前半は…目覚めないですね~~笑」

 

ーそうなんですよ笑 そのためには親しみやすさはやっぱり不可欠だと思うし。そういう意味で「おばあちゃんち」っていう呼び方は大切にしたいと思ってます。

ー書家としていろいろなジャンルでの制作に挑戦されてきたと思うんですが、いま自分の中で、一番しっくりくる仕事ってなんですか。

 

「おもしろい質問ですね!なにかな…

ロゴデザインはすきですね。アメリカンなタイポグラフィとかもすごく好きなので、書道に限らず、文字を活かした制作をしたいです。

作風も、最近ではグラフィックの要素を意識して取り入れていってます。書道っていうと、墨をたらしたりにじませたりする表現が多いですけど、もう少し輪郭をぱきっとさせた…というか。このあいだライブペインティングで描いた朱雀も、そういう意識で取り組みました。

 

ー輪郭がはっきりしているという点で言えば、ボールペンのイラストで制作キャリアをスタートしたところに、少し回帰しているようで面白いですね。書道とイラスト、その間のタイポグラフィ的なものがあると思いますが、逢香さんの中で、あまり境目はないですか?

 

「ないですね~。混ぜていきたいくらいに思っています。自分の表現を追求したいです。昔ながらの書は、昔の人に勝るものは書けないと思うので…現代の方に向けて、つくっていきたいですね。」

 

ーさっき言っていた逢香さんの強みとして、しっかりしたバックグラウンドがありつつですよね。そこを破ってオリジナルの表現を追求していく、っていう過程、すごく素敵だと思います。

 

「そうですね。実は今日、水墨画の教室の帰りなんです。やっぱり墨に関係することは、自分のバックグラウンドとして学んでおきたいと思って通っています。

あと水墨画は、ほんとにやる人がいない…継承のために学んでいきたいです。周りで学んでいる人は、やはりお年を召した方が多いので…。」

 

ーやっぱりある程度年齢を重ねないと目覚めないんでしょうね

 

「目覚めないですね…!素敵なおじいちゃんとマダムばかりです」

「あと、最近は掛け軸をやりたいなと思っています。

大阪で掛け軸の生地を販売されていた方が、たまたま家の近くに越されて来たんです。生地をいーーっぱいもって!!その中には、いまでは作れないようなものもたくさんあるんですよね。それを見ると、掛け軸が衰退している現状がさみしいなと思って。自分の作品は掛け軸で制作していきたいと思ってます。

額装の方が、展示には便利なんですけど…掛け軸は、巻いてコンパクトにしまっておけるので、収納スペースをとらないという、昔もいまも変わらない利点があります。しまっておければ、春夏秋冬の季節感に合わせて架け替えることもできますし。普及させていきたいですね。」

 

ーそうかー、面白いですね!西村邸にも3つ床の間があるので、ぜひ掛けさせてください。

今回は木札の制作をお願いしたけど、いずれは逢香さんらしい作品も、西村邸に来る方に知ってもらいたいです。

昔ながらの町屋って、確かに暮らしにくい面もたくさんあるんですけど、そのハードの部分は残しながら、その中で触れられるもの―ソフトのところは、現代的な親近感を備えていきたい、というのが、ぼくが西村邸でやりたいことなんですよね。逢香さんの作品や想いがとてもマッチするなと、今日改めて感じました。

 

「ありがとうございます。

私は時代に逆行したいんだと思います。墨にしても、掛け軸にしても、縮小している文化を受け継いで、もう一度面白いと思ってもらえるように。あえてめんどくさい方を選ぶことも、ひとつの自分らしい表現なのだと思います。あとは奈良のために、自分が力になりたいですね!」

 

ー20代半ばという、まさに「これからの世代」のクリエイターとして、西村邸もますますお世話になると思います。ご活躍を楽しみにしています。

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

インタビュー中も触れたとおり、過去に培われてきた技術や文化を丁寧に学んだうえで、自分の感性を加えて昇華していく―守破離などと言われる、それ自体が伝統的な学びのステップですが、それをとても高い次元でされているのだと感じました。

まだまだ若い女性であることや、キャラクター制作など華やかな活動をされてきたことに目を奪われがちですが、現在進行形で広く深く学びを重ねる姿勢と、自身の表現を様々な方向へ広げていこうという情熱、そしてなにより自身のルーツとなった感覚を大切にされているということ、まさにクラフトマンシップだと思います。尊敬と、恐れ多くもシンパシーを感じました。

西村邸とのコラボ第二弾!?も、遠くない未来に実現したいと思います。楽しみにしていてください。

次回の「クラフトマンシップとの語らい」は、西村邸のお庭をつくってくださった庭師でありながら、ユニークな活動をされる茶道家でもある、土屋裕さんとの対談記事を予定しています。