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西村邸の想いと、愛すべきクラフトマンシップにふれる読み物です

クラフトマンシップとの語らい―第5編 漆作家・阪本修さん②

漆作家 阪本修さんへのインタビュー、その②です。
その①はこちら

自分が作るなら、身の回りで使うものを作りたい

 

杉本 ―奈良に帰ってきてからは、すぐにご実家の仕事を手伝われたり、自分の仕事を始められたんですか。

 

阪本 「いえ、恥ずかしながら、何の伝手もない状態で帰ってきて、最初の頃は何をしていいのかわからなくて。
技術を持っているという自負はあったので、とりあえず気合いを入れて作品を作って、公募展にエントリーしたんです。ありがたいことにそれで賞を頂けて、『俺、この世界でやっていけるんじゃないか!』っていう、高まりがありましたね。」

 

―独立して最初の仕事で手応えがあったのは嬉しいですね。

 

「だけど、まだまだ誰も僕の存在を知らないことも実感して、歯がゆい思いは続きましたね。
次の大きなきっかけになったのは、仕事の時、ラジオから偶然流れてきた『京都職人工房、一期生募集』ですね。
これもあまり深く考えないで応募してみたんですけど、プロダクトデザインや販売促進に関する講義を、2週間に1回、2年間ほど受けさせてもらえました。これがきっかけになって、【Urushi no Irodori】のシリーズを作ることができました。」

―【Urushi no Irodori】も、活動の初期から作られていたんですね。

 

漆のイメージって、やっぱり黒と赤なんですよ。何を隠そう、僕自身もそう思っていたんですけど、蒔絵の先生のところで仕事をしていたら、他の色を使って仕事する機会がたくさんあったんですよね。
伝統的なスタイルに則ると、やはりシックな黒や赤になるんですけど、漆に親しみのない人はそういう固定概念もなくて、意外と手に取ってもらえるんじゃないかと考えて【Urushi no Irodori】を始めました。」

 

―小ぶりなカップやお皿は、ご自宅でも使いやすいサイズですね。

 

「父はお寺さんからの依頼品を作る仕事が多かったんですけど、そういうものって世間の人の目にあまり触れるものではないじゃないですか。
僕、小さい頃から家にある食器とか棚とか、身の周りにあるものは父や祖父が作ったものだと思い込んでいたんですよ。でも、実は全然そうではなくて。そのことを小さい頃から残念に思っていたので、自分が作るなら、身の回りで使うものを作りたいっていう思いがありましたね。

 

 

好きな表現を探すことを楽しんでいます

 

―今されているお仕事としては、自分で作品を作って発信するということがほとんどですか。

 

「個展に出す自主的なものと、注文をいただいてつくるものが、割合としては半々ぐらいですかね。個展の準備には4,5か月かかるんですけど、ありがたいことに、個展に来てくださった方から『こういうものは作れる?』という注文を頂けるんです。」

 

―主にどういう方が、注文されるのでしょうか。

 

「多いのは飲食店やお寺さんですかね。結婚式の引き出物とか、お茶会の記念品として注文をくださる方もいらっしゃいます。【Urushi no Irodori】であれば、ミュージアムショップに置いていただけることもありました。」

 

―個展の度に、新作も出されるわけですよね。新作のアイデアはどこから湧いてくるのでしょうか。

 

僕は、ある作品を作っている途中で、次はこういうものを試したいというアイデアが湧いてくることが多いです。
今回の個展に向けては、初めて椿の絵を描いたんですけど『今回はこれだけできたから、次はこういうことができるんじゃないか。』とか、そういう感じで膨らませていきますね。」

―ご自身の中に、まだ使ってない”引き出し”があるわけですか。

 

「いや、僕自身にそんなポテンシャルがあるのかは分からないですけど、漆という素材にはむちゃくちゃ可能性があると本当に思ってるので、それに気づいて引き出したいと思っていますね。パッと見るだけではわかりづらい変化ですが、自分としては少しずつ前進して、表現の幅が広がっている手ごたえがあるんです。」

 

―漆に限らず、伝統工藝の基礎には、500年、1000年も昔から存在する技法がありますよね。それをアップデートしていける感覚を、阪本さんに限らず、現代の工藝に携わる方は持っていらっしゃるものなんですか。

 

「持っていると思いますよ。昔の人は上手かったという言い方をされることもありますが、僕は現代の人の方が上手いと思いますね。道具や環境が整っているし、表現もアップデートされ続けて、今が最先端ですね。」

 

―そうすると、今ご自身が物を作っていく中でモチベーションになっているのは、やはり「こういう可能性がある。」という気づきなわけですね。

 

「そうそう、本当にそうです。『この方法、俺が最初に見つけたんちゃうか!』って嬉しくなって、奥さんに報告したりします笑
僕も学生時代は、漆の表情は”塗りたてのツヤツヤ”か、”ふんわりしたマット”か、あとは蒔絵の表現しかないと思い込んでいたんですよ。漆の塗膜はせいぜい0.5 mm から1mmの厚さしかないから、誰が塗ったって同じものにしかならないと思い込んでいたんです。
だけどやればやるほど、可能性に気づくわけですよね。”ツヤ”も”マット”も一口に言っても手触りの違いが何通りもあるし、刷毛目を縦にするのか横にするのかでも変わります。そういうテクスチャーの違いに色の違いを掛け合わせたら、無限どころじゃないくらい世界が広がるんですよ。やればやるほど気がついて『もっと楽しまないと!』と思って。好きな表現を探すことを楽しんでいますね。

もちろん、ベースになる木地との組み合わせにも、可能性が拡がっています。お盆とかなら自分でも作るんですけど、あまり複雑なことはできないので、自分の仕事の分量としては漆8:木工2ぐらいの割合ですね。
円い器などは、石川県の同世代の職人さんに外注しています。山中という”ろくろ挽き木地”の産地に住む方なんですけど、僕の作品の木地はずっと彼が作ってくれています。」

 

―その方のオーダーメイドなんですか。

 

「そうですね。年に1回ぐらいは現地まで行って、木地の値段が上がってるとかの世間話をしながら『次回はこういうものをお願いしたいんです。』みたいな話をします。そこから図面を書いて、細かいやり取りは、電話とか LINE ですね。」

 

その③へ続きます。今後の目標や、阪本さんの考える漆器の魅力について伺います。