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西村邸の想いと、愛すべきクラフトマンシップにふれる読み物です

春日大社の参道を走った日の夜は、いい小説が読みたくなる。

こんにちは。

西村邸の前を通る観光っぽい装いの方も、少しずつ多くなってきたかな…そんな折の梅雨入りで、また少し静かになりそうです。
もともと6月の奈良はイベントも少なく、落ち着くシーズンではあります。明るい夏に向けて、もうひとふんばりといったところでしょうか。

 

ぼく自身もまだまだ、西村邸の中にとどまって仕事をする日が続いていますが、天気がいい日の夕方には、東大寺の方まで30分ほどランニングに出ることにしています。トレーニングというか、身体をチューニングするような感覚でのランニングです。
やっぱり営業の形が変わってから、パソコンモニターの前に座って過ごす時間が増えました。固くなった身体をほぐすようなイメージで、ゆったり走っています。

 

広い奈良公園の芝生を走り、若草山/春日山を眺めていると、普段はあまり感じない「奈良っていうのは、特別な場所なのかもなぁ」という感覚に包まれます。こういうところで暮らせるのは、幸せですね。

 

中でも、途中通り抜ける春日大社参道の景色は格別です。
鳥居を抜けると、まっすぐまっすぐ、トンネルのように木々が連なる春日大社の参道。そこに入ると、いつもその先に吸い込まれそうになります。
参道の突き当りまで距離にすると1km程度なのですが、例えば、さらに遠くの若草山を見上げるよりも、ずっと長い距離で道が続いているように見える。なんとも不思議な錯覚です。
ここを走りながら毎回実感します。普段の自分が、いかに近くのものしか見ていないか、ということを。

 

 

ぼくは、多くのものや遠くのものを見たいと強く願うタイプではない、と自分で思います。
地球上のすべてのものを見ること、知ることはできないし、出来たとしても自分が大切にできるものはごくごくわずか。そう思って諦めながら、まずは目の前に落ちてきたことの中から、フィットすると感じたことを大切にしよう、と考えています。
むやみに視野を広げない。そう褒められた姿勢でもないと思いますが、この割り切りは必要だと考えながら暮らしています。

 

ですが、春日大社の参道を走る時間が日々の中にあって、やっぱりこう…近くのものだけに視線を注ぎ続けるのもよくないなぁ、自分の見える範囲が狭くなっているなぁ、ということを、いろんな意味で考えさせられるのです。

 

 

少し前から、視野を広げるためにと思い、改めていろいろなフィクション、作品に触れる時間を設けています。具体的には毎週水曜日の夜を、映画や小説、マンガなどに触れる時間にしました。おすすめしてもらった映画にトラウマを刺激されてゾッとしたり、ブームから10年以上遅れて『鋼の錬金術師』を読んでボロボロに泣いたりしています。

 

今週はお客様から献本いただいた、住野よるさんの小説『また、同じ夢を見ていた』を読みました。

西村邸レンタルスペースでは、本を寄贈いただくことで利用料金が値引きされる、「献本割引」をやっています。これは、この春、奈良に越してきたばかりだという学生さんに譲っていただいた本です。

 

この小説は、物語好きの小学生の女の子が、不思議な人たちとの出会いの中で、幸せについて考えるお話です。自分が好きなものを好きで居ること。それを好きな自分を応援してくれる人が居ること。主人公が、そういう幸せを噛みしめることで成長していく、温かいストーリーでした。
恐らく、自分から手に取ることはなかったであろうジャンルの小説なので、紹介頂けたことを、とても嬉しく思いました。

 

「本は心の旅路」とはよく言ったもので。こういうフィクションは、ゆるやかに、でもあっという間に、知らない世界へ誘いこみ、瞬間的に視界をひろげてくれる感覚がしますね。

 

 

今回の感染症の混乱を通じて、ぼくは2つのことを、西村邸という場所で考えようと決めました。

 

一つは「健康的な生産と供給」。これは以前からお話ししている「西村邸の畑」で実践していこうというものです。

 

もう一つは、「“小さな文化”の価値」。小説や漫画、映像、音楽、美術、ゲーム、料理、手芸…手元で小さく楽しめる、でも大きな視野や感動をくれる、そういう娯楽を「小さな文化」と呼んでみたいと思います。

 

対になるのは、立派なホールやスタジアムで楽しむ「大きな文化」。それは、自分の気分がいいとき、心や生活に余裕がある時には、とても刺激的で楽しいものです。
ですが、少し気分が落ち込んだとき、心細いとき、そして今回のような緊急事態の場合、より自分の近くに居て、心を支えてくれるのは「小さな文化」ではないでしょうか。

 

いたずらに、大きなもの、新しいものを求めない、という考えが中心にある西村邸は、「小さな文化」を考える場所としても、ふさわしいと思います。
ぼく自身、こうした文化に明るいと胸を張って言えるわけではないのですが、自分なりの形で、この思いをお客さまと共有したいと考えて「献本割引」も始めました。

 

まだご案内は出来ないのですが、通常の営業を再開する7月早々から、西村邸らしいイベントをいくつか準備しています。この場所で、参加してくださるあなたと一緒に、「小さな文化」を楽しめたら嬉しいです。

 

長かった3か月も、だんだん終わりが見えてきました。まだまだ油断できるわけではありませんが、明るくて暑い夏が、すぐそこまで来ています。

 

今日も、最後まで読んでくださってありがとうございました。