クラフトマンシップとの語らい―第4回 池田含香堂6代目・池田匡志さん②
奈良団扇(ならうちわ)の池田含香堂(がんこうどう)6代目・池田匡志さんへのインタビュー、2本目です。(前回の記事はこちら→① )
「家業を継いで間もない頃よりも、いま現在の方が、ある種のプレッシャーを感じる」と語る池田さん。そんな現状の中で、大切にされているポリシーについて伺います。
「僕が好きな奈良団扇への評価ではなくなってしまいますから。」
杉本―いま、お仕事をされている中で、一番大事にされていることは何でしょうか。
池田さん「そうですね…これは、中学生の頃、6代目を継いだ頃、そしていまもずっと繋がっていることなんですけれど、「奈良団扇が好きだ!」っていう自分の気持ちを大切にしたいと思っています。
お客さまにお渡しする上でも、奈良団扇のことを一番理解していないと失礼ですし、奈良団扇の一番のファンでいるということは、今後も大切にしていきたいです。」
―アツいですね!他の産地の団扇と比べても、やはり奈良団扇はいいなと感じますか。
「そもそも国内の団扇の産地というのが、すごく減っているんですよ。関西だと京都の「みやこ団扇」、あとは国内生産の8割以上を担っている、香川の「丸亀団扇」ですね。
ただ、そういう産地で売られているものでも、海外で生産していたり、機械で生産しているものが混じっているんですよね。僕たちが見れば、ちゃんと修業した職人が作ったものかどうかはすぐにわかりますが、そうでないもでも、ある程度の値段がついて売られてしまえば、お客さんが見分けることは難しいことがあります。機械でも綺麗なものは作れますしね。
そういうときに、手作りの団扇の良さをしっかりと説明して伝えることで、お客さまに理解をしてもらう。そういう点でも、ファンであるということの重要性は感じていますね。」
「無料で団扇が配られる時代ですから、その自信が揺らいでしまうと、高い値段をつけた団扇を買ってもらうことはできません。『これ以上の団扇はない!』ということを、自分が身体を動かしたことも根拠にして、信じていかないといけないと思います。」
―なるほど。他の産地の団扇や、先代の方々の団扇と比べて、池田さん自身が作られるものに、「オリジナリティ」はあると考えられていますか。
「作品として作るものと、商品として作るものでも変わってきますが…少なくとも商品として作るもので、強引にオリジナリティを出すことはしませんね。奈良団扇として、評価をしていただきたいと考えているので。」
―個性を表現する作家というよりは、奈良団扇の手法を受け継ぐ職人というスタンスで、製作をされているということでしょうか。
「そうですね。まったく新しいものを作ろうと思えば、全部取り払って斬新なデザインで作れるかもしれませんが、それは僕が好きな奈良団扇への評価ではなくなってしまいますから。」
「もちろん、同じことを繰り返すだけでは、伝統を守り続けることはできませんので、時代遅れにならないように、自分のアイデアを少しずつ入れていくことは考えています。いかに上手くアイデアを入れて、求めてもらえる商品にするかいうところに、職人―というか、商売人としてのオリジナリティがあるかもしれませんね。」
「綺麗な作品を一つ作り上げたいという想いが無いわけではないですが、やはり多くの方に奈良団扇のよさを伝えて、奈良団扇づくりを続けることが一番なので、商売人としてのスタンスを極めていきたいと考えています。」
―なるほど。【工藝合宿】のワークショップの中でも、全体のシルエットが昔と比べると少しずつ変わってきている、とおっしゃっていましたが。そういった細部のアップデートがあるわけですね。
「そうです。わかりやすく見比べられるものは手元にないのですが…父や祖父が作っていた団扇は、どちらかというと四角いシルエットなんです。いまはそれと比べると、かなり円くて可愛らしい形に変えていっていますね。微妙な違いですけど、長年お店に通ってくださるお客さまだと「変わったね」と気づかれる方もいます。形が変われば、風の起き方、使い心地も変わりますしね。」
―確かに、そのあたりは実際お店で手に取って実感できる部分ですよね。
「そうですね。僕が作った同じものでも、やはり手作りですから、微妙な違いがありますので。まったく同じデザインのものでも、いくつか比較しながら買ってくださる方もいます。そういうところが、工藝品を買う楽しみの一つでしょうね。インターネットでの販売も大切な販路ですけど、やはりお店で比べていただけるというのは、売る側としても嬉しいです。」
―先ほど、「数年前まではいろいろなところに出かけてチャレンジしてきたのが、最近はじっくり腰を据えて制作に向き合っている」というふうに仰っていましたが、販売についてもこの実店舗に力を入れていきたいというお考えですか。
「そうですね。インターネット上や東京のような大都市で、新しい可能性が広がることももちろん大切ですけど、最終的にはこの場所に足を運んでもらって、奈良団扇と一緒に奈良を味わっていただきたいですね。」
→③へ続きます